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これからの「消費」を読み解くヒント - キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)佐々木 俊尚

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)

「キュレーションの時代」という本を紹介します。
著者は佐々木俊尚という、フリーのITジャーナリストです。

ところで、「キュレーター」という言葉を聞いたことはありますか?
元々は、博物館・美術館などの施設で、展示品の収集・管理・研究などを行う専門職員を指す言葉です。

しかし5年くらい前から、インターネット上の情報を収集・整理し、再編集した上で他のユーザー(読者)に提供するサイトなどを指す言葉として使われるようになりました。

いわゆる「まとめサイト」みたいなやつです。

本書は「キュレーター」という言葉を軸に、現代社会の情報の流れを分析した本ですが、単純に「キュレーターとは何か?」という内容ではありません。
インターネットの登場以来、情報の流れがどう変わり、それによって人々の消費行動がどのように変化したか、という所まで深掘りした、学術書っぽい内容です。

本の前半では、マス媒体が生み出す大量消費の時代が終わり、情報のチャンネルも消費者の趣味・趣向も細分化していった様子を分析しているのですが、ここで「記号消費」と「機能消費」という興味深いキーワードが出てきたので紹介しておきます。

記号消費…商品そのものではなく、商品が持っている社会的価値(記号)を消費するという考え方。
たとえば「メルセデス・ベンツを買う」場合。本来、自動車は移動の手段なので走りさえすればいいのですが、「ベンツに乗っている=セレブ」という社会的な付加価値を求めてわざわざ高額なベンツを買うのは記号消費と言えます。

機能消費…商品が持つ本来の機能だけを消費する、という考え方。
自動車であれば「走りさえすればいいので、軽自動車で十分」という消費スタイル。

本書ではインターネットの登場以来、これらの消費スタイルがどのように変わったか
について、次のように記述しています。

(P57)
「大衆」と呼ばれるような膨大な数の人々に対してまとめてドカーンと情報を投げ込み、みんなそれに釣られてモノを買ったり映画を観たり音楽を聴いたり、というような消費行動は2000年代以降、もう成り立たなくなってきています。
そうではなく、ジスモンチの公演に象徴されるような小さな圏域、小さくてもそこに集まる人々の顔がちゃんと見えて、どのような人たちなのかという性格が鮮やかに見て取れる、そういう小さなビオトープの集大成として情報の流れはあり、そうしたビオトープの小さな活動の集大成によって21世紀の消費行動は形作られている。

(P90)
マス消費が消滅していこうとしているのは、いまや厳然とした事実です。かつては画一的な情報が画一的に流され、そこに「他の人も買っているみたいだから自分も買っておかなきゃ」「会社の同僚のあの人よりも、すこしでもいい物を」といった背伸び的な記号消費が重なり合い、大量消費が行われていました。でもそうやってモノを買う人は、だんだん少なくなってきている。

(中略)

そういう記号的な価値にはだんだん意味がなくなっていくのであれば、クルマは単なる「人を運ぶための移動の道具」として買えばいい。実際、最近は若者の間で「輸入車とか高級車を買うのはお金のムダ。単なる移動の手段なんだから軽自動車で十分じゃん」と安価な中古車を買う人が増えているようですから、記号消費から機能消費へと逆戻りしている部分は少なからずあるでしょう。安価で着心地の良いユニクロなどのファストファッションが流行しているのも、機能消費化のひとつの表れとして受け止められると思います。

他にも、これからの「消費」を読み解く上でヒントになる記述が満載ですので、興味のある方はぜひ読んでみてください。 

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)