読んだ本について僕の語ること

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退路を断つ - V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)三枝 匡

V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)

著者は三枝匡という経営コンサルタント

本の内容は、ある架空の企業が経営危機から回復するまでを物語にしたフィクションなのですが、そのストーリーは著者が手がけてきた経営支援や企業再生の実体験に基づいているので、なかなかのリアリティがあります。

 

舞台は「太陽産業」という年商3000億円を超える東証一部上場企業。しかし大企業にありがちな社内の官僚組織化に陥り、ここ数年は業績が低迷。その最大の原因は、ある赤字事業の存在で、赤字を垂れ流しながらも「創業以来続く事業」というしがらみによりダラダラと続けていたのでした。

思いつめた社長は、黒岩という敏腕マネージャーにこの事業の再建を委ねます。黒岩は早速、組織改革に乗り出すのですが…

 

後は、硬直した古い組織にメスを入れ、明確な目標を掲げ、それを末端の社員に浸透させ、士気を高め…というお決まりのストーリーなので割愛するとして、本の中で見つけた重要なテーマを1つピックアップします。

 

それは「退路を断つ」ということです。

 

まず、事業再建を依頼された黒岩が社長に対して「2年で黒字化できなければ退任します」と言ってのけるシーンがあります。

その少し前には、黒岩が社長へこんな質問を投げかけ、社長が思わず言葉に詰まるシーンがあります。

 「いっそのこと、『事業撤退』という手はお考えになりましたか?」

 

そう、何をするにしても「引き際」をあらかじめ決めておく、というのが重要なんですね。

事業計画でも人事でも、「こうなったら撤退する」「これを達成できなければポストを降りる」ということを決めておけば、目標も責任も明確になる上、失敗した際の損害も最小限に抑えられます。

俗にいう「出口戦略」です。

 

引き際をしっかりと決めておかないと、「あのプロジェクトってどうなったんだっけ?」みたいな形で結果も責任も曖昧なままダラダラと時間が過ぎていくことになるんですね。

 

最後に、この太陽産業の社内改革を邪魔する「しがらみ」についての分かりやすい記述をご紹介しておきます。

(第1章「見せかけの再建」より)

この赤字事業は太陽産業の社歴と同じ年数の歴史を持ち、それを売り払うということは

太陽産業の歴史を捨てることでもあった。

この事業撤退を口にする人は、いつも古手の幹部から袋叩きに遭い、社内どころか引退したはずの

元幹部までが跋扈(ばっこ)して、電話を入れてくることさえあった。

 

【解説】

組織の「政治性」は「戦略性」を殺す力を持っている。政治性は、個人の利権・利害の混入、過去の栄光への執着、

個人的好き嫌いなどによって生まれ、「正しいか正しくないか」よりも「妥協」重視の組織風土を醸成する。

 

V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)

V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)