読んだ本について僕の語ること

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『クマのプーさん』で老荘思想を理解 - クマのプーさんの「のんびり」タオ (講談社プラスアルファ文庫)ベンジャミン ホフ

クマのプーさんの「のんびり」タオ (講談社プラスアルファ文庫)

 

この本は、世界的に有名なあの絵本『クマのプーさん』を通して、老荘思想の一端を理解しようという面白い試みのもとに書かれた本である。

1998年に出版された本だが、以降日本では、2011年にPHP文庫から『くまのプーさん しあわせに気づく言葉』が、2012年には同じくPHP文庫から、『くまのプーさん 心がフッと楽になる言葉』が出版されるなど、『クマのプーさん』が持つ底知れない魅力をほじくり出す、さきがけとなった本でもある。2014年に至ってもPHP文庫からは『プーさんと仲間たち そのままでいこう』なる文庫が発売され、プーさんの思想的人気は衰えることを知らない。

 

さて、『「のんびり」タオ』であるが、この本では、あのおとぼけキャラのプーさんが、よく見るといかに人間の(本人? は人ではなくてクマだけれども)「上善」の本質に差し迫っているか、ということが指し示されている。プーさんは、プーさんの絵本の中でも、最もといっていいほどおバカなキャラである。頭の中はハチミツのことで一杯。甘いものが好きで、性格は単純。賢いラビット(本書では、ウサギ)や、物知りのオウル(本書では、フクロと記される)からは、明らかに下に見られている。しかし、無知でおバカなだけに、無駄に卑下もせず、怖じ気づくこともしない。これを際立たせるのが、自己卑下体質の灰色ロバのイーヨーや、何かというと自分のことを「僕のような小さい動物」と称してオドオド、ビクビクしているピグレット(本書では、コブタ)である。プーにはそうした、自分を小さく見せようとするところもなければ、大きく見せようと虚勢を張る部分も全くなく、これが結果的に、図らずも、中国の老荘思想、つまりタオ(道)の思想にマッチする結果となった。

タオ思想には、上善と下善がある。下善は、自分が善たることを行っているという自覚があり、善を行うことで他者に評価されたいと切に願う心のことを示す。これに対し、上善とは、自分自身でさえも、善たることを行う自覚はない。善であることが当たり前であって、それに対する賞賛も見返りも求めることがない。下善は、他者からの賞賛と評価がなければ疲れる。いわゆる下心のある善であり、現代社会は下善に溢れているともいえよう。

 

上善の姿を追い求めて、善たる生活を送れている者は、現代の日本社会には数少ない。しかし、そのコツさえ覚えれば、世の中はずっと生きやすいものとなる。どうすればいいのか……それをやわらかく教えてくれる、見本になってくれるのが「クマのプー」に他ならない。

しかし彼は、私たちに何かを教えている自覚などない。プーはただプーとして、毎日たんたんと自由な生活に徹しているだけである。そこに必ず、何か私たちのヒントとなるものがある……おバカには価値がある! そんなことを、切に感じさせてくれる本である。

 

クマのプーさんの「のんびり」タオ (講談社プラスアルファ文庫)

クマのプーさんの「のんびり」タオ (講談社プラスアルファ文庫)