牛丼を食べるたびに考えてしまいます - 吉野家 安部修仁 逆境の経営学(日経BP社)戸田 顕司
全国どこでも見かける牛丼の吉野家ですが、実は過去2度にわたって倒産の危機を乗り越えてきました。
一度目は1980年。急激な拡大が裏目に出て業績が悪化し、会社更生法の適用を申請。セゾングループの支援によって危機を脱しました。
そして二度目は、BSE問題で日本が米国産牛肉の輸入停止を決め、牛丼の販売中止に追い込まれた2004年。
2006年に輸入が解禁され、牛丼が復活するまでの2年間を新メニューの開発などで何とか乗り切りました。
この本は、2004年の危機に吉野家がどのように対処したのかを、当時の経営トップ、安部修仁という人が語っている1冊です。
安部さんは高校卒業後、ミュージシャンを目指して上京し、1972年にアルバイトで吉野家に入社しました。
その後、ミュージシャンの夢は諦めたものの、吉野家での活躍が認められ、とんとん拍子に出世します。
そして、1980年代の倒産時には新たな取締役に抜擢され、1992年に42歳の若さで
代表取締役社長に就任。高卒アルバイト出身の社長ということで注目を集めました。
読んでいて感じるのは、やはり企業経営は奥が深い…ということでしょうか。
(当たり前ですが…)
扱っているのはあくまで2004年に起こった会社の危機なのですが、目次を見ると…
①リスクマネジメント
②リーダーシップ
③プライシング(値決め)
④モチベーション
⑤ブランディング
⑥マーチャンダイジング(商品政策)
⑦コミュニケーション
⑧ファイナンス
⑨M&A
⑩フィロソフィー
と、幅広いテーマに言及しているのが分かります。
どのテーマについても、安部さんの実体験に基づいた冷静で的確な分析が語られているので、とても読み応えがあります。
最後に、②の「リーダーシップ」という章の中からの一節を紹介しておきます。
これは安部さんが吉野家の実質的な創業者から、リーダーのあるべき姿について教わったことを振り返っている場面です。
P.33「いい子になるな」より
リーダーについて話す時、私は松田さん(創業者)の言葉を借ります。
松田さんはよく『大抵の上司は、部下の短所と自分の長所を比較している。
それでは人は伸びない』と怒っていました。自分の長所と部下の短所を見比べているのですから、常に自分が勝って
部下がバカに思えてしまう。それでは、部下の優れた能力を引き出せないんです。
部下も『この上司でなければ、もっと気持ちよく仕事ができるのに』とくさる。だから、『比較するのは、自分の短所と相手の長所にしろ」と。
これによって、自分が改善すべき課題が見えてくるメリットもあります。